盆栽のもとになったのは、中国で古くから作られてきた「盆景(ぼんけい)」です。浅い器の上に樹や石を配して、山や川のある景色を小さく表すもので、日本に伝わってから一本の樹を中心に見せる盆栽へと形を変えていきました。
同じ根から生まれた二つの文化ですが、何を見せようとしているかが少し違います。違いが分かると、展示会や植物園で盆景を見たときにも、見るべきところが分かりやすくなります。
盆景とは
盆景は、器の上に自然の景色を表す中国の伝統的な園芸です。大きく分けて、次の三つの種類があります。
| 種類 | 中心になるもの | 見どころ |
|---|---|---|
| 樹木盆景 | 樹 | 幹や枝の形。日本の盆栽にもっとも近い |
| 山水盆景 | 石 | 石を山や崖に見立て、水を張った器で湖や川の景色を表す |
| 水旱盆景 | 樹と石と水 | 樹・石・水辺・土を組み合わせ、陸と水のある一つの風景を作る |
図:盆景は、樹・石・水のどれを中心にするかで三つに分かれます
山水盆景や水旱盆景には、小さな人形や東屋、舟などの添え物を置くこともよくあります。景色の中に人の営みを感じさせ、一つの場面として見せるための工夫です。
名前・樹形図鑑「石付き」とは石の上や石のくぼみに樹を植え、岩場に生える樹の景色をつくる樹形です。根を石に沿わせて鉢の土まで下ろすものと、石のくぼみに土を入れて植えるものがあります。 ›中国から日本へ
器の上に景色を作る文化は、中国では唐の時代にはすでにあったと考えられています。唐の皇族の墓の壁画に、小さな樹と石を盛った器を持つ人の姿が描かれていることが、よく例に挙げられます。
日本には、平安時代から鎌倉時代にかけて、中国との交流の中で伝わったとされます。鎌倉時代の絵巻物には、鉢に植えた樹が描かれた場面が残っています。はじめは貴族や僧など一部の人の楽しみでしたが、江戸時代には武士や町人にも広まり、鉢植えの樹を育てて楽しむ文化が根づきました。
明治時代以降、自然の大木の姿を一本の樹で表す今の「盆栽」の考え方がはっきりしてきます。日本の盆栽の歩みは、こちらで詳しく紹介しています。
あわせて読みたい盆栽の文化|床の間の飾り方と見立ての考え方、歴史の大まかな流れ記事を読む ›考え方の違い
一番大きな違いは、「何を見せるか」です。
- 日本の盆栽:一本の樹を主役にし、その樹が山や野で長い年月を生きてきた姿を表します。正面を決めて、幹の立ち上がりや枝の配置、まわりの余白まで含めて見せます。
- 中国の盆景:景色そのものを主役にします。樹は景色の一部で、石や水、添え物と組み合わせて、詩や絵画のような一場面を作ることが重視されます。
図:盆栽は「一本の樹」、盆景は「一つの景色」を見せます
もちろん、中国にも一本の樹の姿を見せる樹木盆景があり、日本にも石を組み合わせる石付きや、樹と石で風景を作る寄せ植え・景色盆栽があります。どちらかにしかない技法というより、重心の置き方の違いと考えると分かりやすくなります。
仕立て方・鉢・樹種の違い
| 比べるところ | 日本の盆栽 | 中国の盆景 |
|---|---|---|
| 枝の作り方 | 針金で枝の向きを整えることが多い | 地方によって、切り戻しをくり返して枝を作る方法や、棕櫚の繊維で枝を縛って形を作る方法がある |
| 樹形 | 自然の大木の姿に近づける | 幹を大きく曲げた形や、枝を平たい層に重ねた形など、様式化された形もある |
| 鉢 | 樹に合わせて落ち着いた色と形を選ぶ | 大理石の浅い水盤や、装飾のある器も使われる |
| 添え物 | 樹だけで見せるのが基本 | 人形・東屋・舟などを置くことがある |
| よく使う樹 | 松、真柏、もみじ、梅、さつきなど | 楡(ニレ)、榕樹(ガジュマルの仲間)、雀梅、福建茶など暖かい地域の樹も多い |
鉢には、両者のつながりがよく表れています。中国の宜興(ぎこう)で作られた焼き締めの鉢は日本でも古くから珍重され、古い時代に中国から渡ってきた鉢は今も大切に扱われています。
地方ごとの流派
広い中国では、地方ごとに盆景の作り方の特徴があり、流派として受け継がれてきました。よく知られるものを挙げます。
- 嶺南派(広東):枝を伸ばしては切り戻すことをくり返して、枝の骨組みを作ります。針金をあまり使わず、自然な枝ぶりになるのが特徴です。
- 揚州派:棕櫚の繊維で枝を細かく縛り、枝葉を雲のように平たい層に整えます。
- 川派(四川):幹を大きく曲げた、力強い形で知られます。
- 蘇州派:自然な雑木の姿を生かした、落ち着いた樹形が多く見られます。
- 海派(上海):形の決まりにとらわれず、小さなものから大きなものまで自由な表現が見られます。
盆景を見るときのポイント
展示会や植物園で盆景を見るときは、盆栽とは少し見方を変えると楽しみやすくなります。
- まず全体を一つの絵として見る:どんな景色を表しているのか、山なのか水辺なのかを最初につかみます。
- 石の置き方を見る:石は山や崖の役です。石と樹の大きさの関係で、景色の遠さや広さが表されています。
- 添え物と余白を見る:人形や舟がどこを向いているか、水面がどれだけ空いているかで、景色の物語が感じられます。
ポイント
盆栽を見るときは「この樹はどんな場所で、どんな年月を生きてきたか」、盆景を見るときは「この器の中にどんな景色が広がっているか」と考えると、それぞれの見どころがつかみやすくなります。

写真:thisfeministrox / CC BY 2.0
日本に残る盆景とのつながり
日本の盆栽は一本の樹を見せる方向に進みましたが、景色を楽しむ考え方も、さまざまな形で受け継がれています。
- 石付き盆栽:岩の上や割れ目に樹を植え、崖や岩山に生える樹の姿を表します。石と樹を組み合わせる点で、盆景に近い楽しみ方です。
- 寄せ植え:何本もの樹を一つの鉢に植えて、林や森の景色を作ります。
- 水石(すいせき):自然の石を、山や島などの景色に見立てて鑑賞するものです。盆栽と一緒に飾られることも多くあります。
- 盆石(ぼんせき):黒い盆の上に石と白い砂を置き、海や山の景色を描く日本の伝統です。名前は似ていますが、植物を使わない点で盆景とは別のものです。
盆栽の展示会で、樹の横に石や小さな草ものの鉢が添えられているのを見かけたら、それも景色を感じさせるための工夫です。
いまの盆栽と盆景
今では、日本の盆栽と中国の盆景は、どちらも世界中で楽しまれています。海外の植物園には、盆栽と盆景を並べて展示しているところもあり、両方の技法を取り入れる愛好家も増えています。世界での盆栽の広がりは、こちらで紹介しています。
あわせて読みたい海外の盆栽事情|世界に広がった経緯と、北米・ヨーロッパ・アジアでの楽しまれ方記事を読む ›日本の盆栽の展示を見に行くときの見方は、盆栽展示会での鑑賞方法も参考にしてください。
