芽摘みや剪定をすると、切った下から新しい芽が出て枝が増えます。これは偶然ではなく、植物が持っている「先端を優先して伸ばす」しくみを利用した作業です。
しくみを知っておくと、どこを摘めば枝が分かれるのか、なぜ上の枝ばかり太くなるのかが分かり、作業の判断がしやすくなります。ここでは、植物ホルモンのはたらきを盆栽の作業に結びつけて説明します。
先端の芽が脇芽を抑えている(頂芽優勢)
枝の先端の芽(頂芽)が元気に伸びているあいだ、その下にある葉の付け根の芽(脇芽)は、ほとんど伸びずに休んでいます。この性質を「頂芽優勢」と呼びます。
先端の芽では、オーキシンという植物ホルモンが作られています。オーキシンは枝の中を下へ移動し、脇芽の伸びを抑える方向にはたらきます。先端を摘むとこの流れが止まり、根のほうから届くサイトカイニンの作用もあって、下の脇芽が動き出します。
図:先端を摘むと、下の脇芽が動き出して枝が分かれます
芽摘みで枝が細かく分かれるのは、このしくみによるものです。1回で枝が増えるのは先端近くの数芽ですが、毎年くり返すことで、枝先が細かく分かれた盆栽らしい枝ぶりになっていきます。

写真:Dominic's pics / CC BY 2.0
盆栽の作業に関わる主な植物ホルモン
植物ホルモンはごく少ない量で植物の生長を調節する物質です。単独ではなく、いくつかが組み合わさってはたらきます。作業との関係でおおまかに知っておきたいのは、次のものです。
| ホルモン | 主なはたらき | 盆栽の作業との関係 |
|---|---|---|
| オーキシン | 先端で作られ、脇芽の伸びを抑える。根の発生を促す | 芽摘み・剪定で先端を取ると脇芽が出る。挿し木の発根促進剤の成分にも使われる |
| サイトカイニン | 主に根で作られ、芽の伸びや細胞の分裂を促す | 根が元気だと芽吹きもよい。根を切りすぎると芽の動きが鈍る |
| ジベレリン | 茎を伸ばす | 日陰で枝がひょろひょろ伸びる徒長にも関わる |
| アブシシン酸 | 休眠や、乾燥時に葉の気孔を閉じる | 秋から冬の休眠、水切れのときの反応に関わる |
| エチレン | 実の成熟や落葉に関わる | 実ものの色づき、秋の落葉などに関わる |
これらのホルモンそのものを鉢に与えて樹形を作る、という方法は一般的ではありません。盆栽の作業では、芽を摘む、枝を切る、根を整えるといった手入れを通じて、樹の中のホルモンのバランスを動かしていると考えると分かりやすいです。
ポイント
挿し木の発根促進剤は、オーキシンの仲間を成分にした園芸用の薬剤です。切り口に付けてから挿すと、根が出やすくなります。使うときは、製品に書かれた方法と量を守ります。
切る位置で、次に伸びる方向が決まる
剪定で枝を切ると、切り口のすぐ下の芽が新しい先端になります。その芽がどちらを向いているかで、次に伸びる枝の向きが決まります。
図:外向きの芽のすぐ上で切るのが基本です
- 残したい芽を決める。基本は幹から外へ向かう芽(外芽)
- その芽の少し上、芽を傷つけない位置で切る
- 芽から離れた位置で切らない。芽のない部分は枯れ込み、見た目も悪くなる
内向きの芽で切ると、伸びた枝が幹の側へ入り込み、ほかの枝と交差しやすくなります。枝の空いた部分を埋めたいときなど、目的があるときだけ選びます。
樹の上と枝先ほど強く伸びる
盆栽を育てていると、頂部や枝先ばかり勢いよく伸び、下の枝や内側の枝が弱っていくことがあります。頂芽優勢と同じく、植物は高い位置や先端に養分を優先して送る性質があるためです。
図:強い所は早めに摘み、弱い所はしばらく伸ばして勢いをそろえます
放っておくと上の枝だけが太り、下の枝が枯れて樹形が崩れます。そこで、芽摘みの時期と強さを場所によって変えます。
- 頂部や枝先の強い芽:早めに、短く摘む
- 下の枝や内側の弱い芽:摘まずにしばらく伸ばし、葉を増やして力をつける
- 弱った枝:その枝の先は切らず、周りの強い枝を先に整理して光を当てる
もみじの芽摘みのように、樹種ごとの具体的な時期や残す葉の数は、こちらで紹介しています。
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根は水と養分を吸うだけでなく、芽の伸びに関わるホルモンを作る場所でもあります。植え替えで根を多く切ったときは、芽の動きが一時的に鈍ります。その年は強い剪定や芽摘みを重ねず、樹が回復するのを待ちます。
反対に、枝を大きく切り詰めた年は、葉が減って根に送られる養分も少なくなります。強い剪定と強い根の整理を同じ時期に重ねないことが、樹を弱らせない基本です。
注意
芽摘みや剪定は、樹に力があってこそ効果が出ます。葉の色が悪い、芽の伸びが弱いといった樹では、先に置き場所や水やりを見直し、勢いが戻ってから枝づくりを始めます。
季節によって効き方が変わる
同じ芽摘みや剪定でも、行う時期によって樹の反応は変わります。
- 春の芽吹きのころ:根から芽へ養分と水が勢いよく送られる時期です。芽摘みをすると脇芽がすぐに動き、枝が分かれやすくなります。
- 初夏:葉が固まり、枝も充実してきます。伸びすぎた枝の切り戻しや、元気な樹の葉刈りが行われるのはこの時期です。
- 真夏:暑さで生長が鈍るため、切っても新しい芽の動きは鈍くなります。大きな剪定は避けます。
- 秋〜冬:落葉樹は休眠に向かいます。落葉後は枝の流れが見やすく、樹形を整える剪定に向いています。切った位置の芽は、翌春に動き出します。
時期を外して強く切ると、芽が出ないまま枝先が枯れ込むこともあります。樹種ごとの適期を確かめてから作業するのが確実です。
よくある疑問
芽摘みをしたのに、脇芽が出てこない
樹の勢いが足りないか、その枝に十分な光が当たっていない可能性があります。日当たりのよい場所に置き、周りの強い枝を整理して光を入れます。
上の枝ばかり太くなってしまう
頂部の芽を早めに、強めに摘むことをくり返します。下の枝はしばらく伸ばして葉を増やすと、少しずつ太さの差が縮まります。
切った枝の先が枯れてきた
芽から離れた位置で切ったか、時期が合っていなかったことが考えられます。枯れた部分は、生きている芽の少し上まで切り戻します。
作業の基本をもう一度
芽摘み・剪定・針金かけといった作業の手順と時期は、入門の記事で順に説明しています。
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